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鈍く青白い光

執筆者の写真: keiichiroyamazaki
keiichiroyamazaki
7月8日
読了時間: 3分

更新日:7月9日

めずらしく人前で演奏をする機会があったので、楽器の基礎練習のため近くのスタジオの会員証を作って、ひと月ほど足繁く通った。


平日の、夜のロビー。雑然とも整然ともつかず所狭しと並んだ機材が蛍光灯の光を愛想なく反射している。くたびれた様子で喫煙室へ入っていく絵に描いたようなレザーパンツ姿の古典的ロックミュージシャン、レッスン講師と生徒が次回の予定の打ち合わせをし、ガールズバンドの女の子たちのおしゃべりはカフェでするよりもずっと控えめだ。音楽が生命を授かる崇高な場所であるというのに水泳のあとの授業や明け方のファミリーレストランのような退廃のムードが充満し、しかし分厚いドアで仕切られたいくつもの部屋からは重い低音が絶え間なくずんずんと響いてくる。こういう場所の雰囲気はいつの時代も変わらないものらしい。


若い頃、毎夜のようにこうして小さなスタジオに独り籠った。何がなんだかわからず請われるままに演奏をして、知らない音楽を体当たりで学び、ひと月を一年と感じるような濃密な歳月を過ごしていた。ステージには色とりどりの光が舞って、誰が誰だかわからぬほどたくさんの人と出会い、笑い合い、いつもお祭をしているような日々だったが、私はリハーサルではなく独りで楽器と向き合うだけの時間が好きだった。難しくても楽器に飽きることはなかった。刺激的な人生を十分楽しんではいたが、今思えば、私の関心はもともとミュージシャンとして活動するのとは別のところにあったのかもしれない。


ロビーに居合わせた彼ら彼女らの音楽は、それぞれの人生にどのように寄り添っているだろう。それぞれの部屋から響いてくる重低音は、明日どこで誰のもとに届けられるだろう。そこではどんな光が彼らに注ぐだろう。


スタジオは、くたびれていてよい。殺風景で、ぼんやり鈍い光があればよい。あの頃、足立区の小さな地下のスタジオで毎夜店員として狭いフロントに座っていたのは小柄で物静かなドラマーの男性で、会員証を返すとき差し出す手の所作にとても品のあるひとだった。理由もなく、今とても会いたいと思うひとの一人だ。




【お知らせ】

今年11月の個展の情報が公開されています。


毎回おなじみDM代わりの栞も完成しておりまして、7月8日現在置いていただいているのは

中目黒SUT


経堂elmo


まだまだ先ですので現在は上記2箇所のみとなりますが、ご所望の方は是非訪れてみてください。どちらもとても素敵な場所です。

もちろん私も何枚かは持ち歩いていますので、直接お会いすることがあれば差し上げます。

今年も皆様にお会いできるのを楽しみにしています。

 
 
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