風薫る
- keiichiroyamazaki

- 5月25日
- 読了時間: 2分
更新日:6月5日
昨年のconcealでの個展の直前、初夏の陽気の晴れた5月の休日に、麻布台の袋小路の奥にある戦前1930年代に建てられたアパートを訪ねた。そこには催しでオープンしていることがめったにない小さなギャラリーがあって、めずらしく開廊している様子だったからだ。その日行われていたのは愉快なアロマセラピストさんによる「香りの展覧会」で、たしかパッションフルーツの花がベースだったと思うが、華やかさを抑えた奥ゆかしい甘い香りに「贖罪」をイメージさせるキャプションが添えられていた。窓からさわやかな外光の射し込む、とても静かな午前のひとときだった。
精油を選び組み合わせながら香りを作ることができると言うので、面白そうだからやってみることにした。高校から大学にかけて愛用していたPACO RABANNEが販売停止となって以来(その後現在ではまた売られているようだが、同じものかどうかは不明)ワインを飲むようになったせいもあって香りを纏う習慣はなく、心得は全然なかったが、目の前に並ぶ小瓶の蓋に書かれたボタニカルの名前の中に「ジュニパー」を見つけたから、それとライムをベースに作ってみたいとお願いした。レモン、檜葉、ヒノキ、ブラックペッパー、少量のハッカ。さわやかで複雑さがありながら刳みなく優しい香りができて、ちょうど1年楽しませていただいた。
それからconcealでの私の個展にも来てくださって、彼女はどうやらあの場所がとても気に入ったらしく、同じ企画をconcealでも開催されるようになった。先日ひさしぶりに会いに行くと真っ白な室内で変わらず朗らかなエネルギーを放っておられた。グレープフルーツ、フェンネル、ジュニパー、ローズウッド、ハッカ、リンデン。今年も作ってもらったが、彼女の作る香りは既成の香水と違って穏やかで、しかしその故にこちらがしっかりそれを感じ取ろうとする態度になるのか、心身がとても冴える感じがするのが素敵だ。はじめハッカがやや強いかと感じたがすぐに馴染んできて、一週間ほど経ってローズウッドの甘やかさが開いてきた。シトラス、フローラル、ウッドのバランスを取るのは難しそうだが、既成のものと全く違う変化はワインのようで楽しい。これからの一年はこの香りにお付き合いいただこう。
昨年の和朗フラットでのことは「麻布路の〜」と詠んで残しておいたが、和歌が呼び覚ます記憶はまさに香りに近い性質のものだと思う。か細く儚げで、移ろいやすく掴みどころがないが、まさにそのためにこそ確かでもある。
