図書室
- keiichiroyamazaki

- 9月24日
- 読了時間: 3分
「読み聞かせによい本はないか?」
という相談があった。ボランティアで小学校に行くのだそうで、学年と時間はと聞けば「1年生から6年生、希望者のみでおそらく少人数、15分」とのこと。少し前まで幼児だった子ともうすぐ中学へ上がる子に同じものとはずいぶん乱暴な話だ。中勘助『鳥の物語』から『ひばりの話』といきたいところだが15分では収まりそうにないし、読み聞かせであれば作中最初のほうに登場するはた織りの唄は実際にふしをつけて歌ってあげる必要があるだろうから、素人には難しいかもしれないと思った。
幼いころ、子供向けのものを与えられるのがいやだった。大人と同じものがよかった。似せて作ったおもちゃと大人が使う本物とを、子供は見分ける。だから音楽をやっていた頃、いつもライブに来られないひと向けの子供連れ歓迎昼のジャズライブをやったときにも考え方を変えたりはせず、セットの最後にleft aloneなど選んで、全力で演奏した。未就学児もいたが一人もぐずることなく静かに最後まで聴いてくれてとても嬉しかった。堀文子氏も「子供に与えるものは最高のものでなければならない」と言っている。最高のものは無理でもベストは尽くしたかった。
望んで聞きに行こうという子供たちだけが相手なのだから、変に目線を下げすぎず攻めの選択をしたい。かといって重すぎたり、あまりに難解なものではよくない。ある程度平易な言葉で、そして音として聞いてしっかりと詩情を味わえるものがふさわしい。すこし考えて、小川未明の童話から『白い門のある家』を、次いで『花と少女』を選んだ。100年前の文章でありながらさほど違和感なく読むことができて、しかし現代ではすっかり失われてしまった日本語そのものの流れるような美しさと温もりを備えている。どちらも12分くらいには収まりそうだが、結末を求めるようなお話ではないところ、あまり怖くはないからホラーとまで言わなくても、いちおう怪談と呼ばれる類のものであるところが気がかりではあると添えた。そして読むひと自身がその魅力を感じながら言葉を発することが何より大事だから、意図も含めてご紹介はするが無理のないように、あなたがよいと思うなら『ノラネコぐんだん ラーメンやさん』だってもちろん構わないと思う、と伝えた。
結局、はじめの二つのあとに紹介しておいた『殿さまの茶わん』が選ばれた。『白い門〜』のような耽美的、幻想的な魅力はないが十分に格調高く、筋書きが素直ではっきりしているし、思慮深いお殿さまの人柄が魅力的でコミカルなところもあって、よい選択だと思った。
さてどんな子たちがやって来るのやら。楽しんでくれたら何よりだし、まだ小さくてよくわからなくても、誠実に綴られた言葉が持つ豊かな響きをほんのすこしでも味わってもらえたなら嬉しく思う。
