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  • 執筆者の写真keiichiroyamazaki

電車の座席が熱く、腰掛けるとじんわりとしてたちまち睡魔が襲ってくる。湿気で曇った窓、濡れたゴム床と鞄。皆煩わしそうな顔をしながら、しかしいつもと違う朝のリズムを静かに味わっているような雰囲気でもある。


中学受験のとき、大雪が降った。電車が止まって、タクシーも走らず、半ば諦めかけている中同じマンションに住むおじさんが私と母を十数キロ離れた地下鉄の駅まで送ってくれた。学校は遅延対応などてんやわんやで、試験を進行する教職員や手伝いの在校生も、受験生もその親も、皆どこか高揚したような奇妙な一体感があった。とても疲れたが結局その中学に私は進学し、楽器をやるようになり、音楽を通して観念、認識、共有、構造、理性、そういったものに対する感覚を持つようになった。


もともと非常にムラのある、夜まで悪友と遊び呆けて、平気でトップにもビリにもなるような扱いづらい子どもで、決して受験は大成功ということはなかったが、この頃のたくさんの偶然が今の私を作っているのは明らかで、だから雪の日の朝には多少の感慨がある。長靴は重くて歩きづらいが、文句は言うまい。


あの頃、子どもだった自分と、今の自分。正直たいして成長していないし、この先もそんなものだろうと思っている。でもあの日、受験を諦めて他の学校に行っていたら、共学の学校だったら、楽器をはじめなかったら、果たしてどんな自分だったかまったく想像がつかない。


春を感じることもあるけれど、今朝はやはり寒い。朝食は蕎麦にしようか。

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