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  • 執筆者の写真keiichiroyamazaki

あけぼの

ぬるい冬だと思っていたらいつの間にかかなり寒くなっていて、しかし2月も半ば近く、もうひと仕事ふた仕事片づけていたら春の足音が聞こえてきそうでもある。毎朝の空も品の良い薄紫色になってきた。子供のころからこの色はとても好きだった。


ここひと月ほどとても慌ただしく、疲れやストレスを感じていて、そのせいかとても古い音楽をよく聴いている。主に音量に乏しいという理由で、リコーダーという楽器は今で言うフルートに取って代わられてしまったのだけれど、バロックよりも以前のまろやかなリコーダーの響きの美しさは何百年経とうとも廃れることはない。日本で言えば室町時代の終わりから安土桃山時代にかけて、遠い昔のものだ。好みを言うなら、リュートのような弦楽器の入らない、かつ音域が低めで、ソプラノがくらいの編成がいい。染み込むような優しいく親しみ深い響きの中に、襟を正したくなるような厳かさがあり、その均衡が心地よく、豊かだ。


新しさのための新しさは要らない。ただ正しければよい。もちろん正しさは星の数ほどあって、誠実にやりさえすれば、時には正しく新しいものができることもあるだろう。しかしそれは副産物であって、断じて目的ではない。月日が流れ世の中がひっくり返ったとしても廃れることのないもの。たとえ叶わないとしても理想としてそれを見据えているべきだ。


一日の始まり、刻々と白んでゆく空の色は、人の世の終わりまできっと美しいだろう。

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