top of page
  • 執筆者の写真keiichiroyamazaki

凝縮してゆく

購入いただいた作品は、先方に不都合がなければできるだけ自分で届けるようにしている。配送でも構わないのだが、額のネジが緩んだり中身がずれたり、そんな些細な異常が生じないとも限らず、一緒に直接確認すればその場で直すのは簡単だし、何より感謝を直接お伝えすることができるからだ。


zakuraでお世話になって三回目の冬。テーマを変えたりせずずっと同じことを続けているが、やることが同じであるがために、ひと冬ひと冬作るものがより自然になっていく感覚がある。年月を経て振り返ったら何らかの変化が見て取れる、もしかしたらそんな楽しみもあるのかもしれないと、馬鹿の一つ覚えのようにただ繰り返している。


たくさんものを考えて、思えば色々なことをしてきたけれど、つまり何をかと言えば「美しいとは何か」。それをいつも考えてきた。一見難しそうな問題だがずいぶん早い段階で答えは見つかっていて、それは「やるべきことをやる」ということだ。最終的に出てきたものが誰かと同じでも、似ていても、そんなことはどうでもよくて、当人にとってほんとうに偽りのない素直な表現であるならそれは絶対に個性的な、唯一無二のものになる。そしてそれは、本来であれば人間のひとりひとりが確かに備えているものであるはずだ。


十代、二十代のころから音楽を通して少しずつそれを自分の感性に染み込ませてきて、自分にとっての「やるべきこと」が次第にはっきりしてきた。そうして紆余曲折を経て、今はそれを体現する段を迎えている。断絶はどこにもなくて、見るもの、作るものが自然に、これまでしてきたことと深い繋がりをもって現れてくる。そうして己を凝縮したものが誰かに喜んでもらえて、そのひとの人生に寄り添っていく。これほど幸せなことがあるだろうか。


「やるべきこと」を見つけるのはとても難しい時代。人間は弱いし、そこにつけ込んで大事なものを奪い取ろうとする力は常時、全方位から向けられていると言っていい。それでも、私は私の幸福をもって戦う力を与えてもらっていると感じている。ありがたいことだ。

bottom of page