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  • 執筆者の写真keiichiroyamazaki

調整

先月友人のライブに行ったらシットインのお誘いがあって、恐縮ながらご一緒させていただいた。そのときピストンボタンに嵌めてある貝の接着が剥がれるというアクシデントがあり、帰宅してから付け直したのだが、吹き心地と音色が変化してしまった。


ピストン回りのフィーリングはほんとうにデリケートで、特にインプロヴァイズを伴う音楽の場合、狂うとまるで別人のように演奏がだめになることもあるだけに、調整にはものすごく神経を使う。オイルは楽器の古さによってある程度絞られるが、スプリング、インナーフェルト、ボトムキャップ、ピストンボタンの組み合わせは無数にあるし、フェルトは消耗品で日々感覚が変化していくから、不調に陥ったとき原因がどこにあるのかを見抜き修正する力はトランペッターにとって大切な能力だと思っている。楽器側の調整にばかり振り回されていてもまずいし、楽器に無頓着すぎても奏法が狂ってしまう。


もともとのピストンボタンはまたいつ貝が剥がれるかわからず、それが演奏中であった場合はかなりまずいので替えてしまうことにした。幸か不幸かヤマハ系と同一のネジ径は多くのメーカーで採用されており、手元に昔取り寄せたInderbinenのものがあったので換装したところ、動きは滑らかで音の密度もよいが押し戻しが強すぎて吹奏感がきつくなり、何度かテストしたものの長時間の演奏に問題があったので、スプリングを昔使っていたイタリアの楽器純正の軽いタッチのものに換え、その分フェルトは以前のセッティングでは硬すぎて吹きづらかったKlangでバランスを取った。


よいセッティングの条件はまず、小さな音の反応がよいこと、そしてそれと音のまとまりが両立し、長い演奏が可能なことだ。よい音が出てもそれが持続できなければ実用は難しいし、反応が鈍重ならジャズのような音楽では致命的だ。ひとまずバランスは作れたから、あとはセッション等でテストし安定性を評価する必要がある。3コーラス以上のインプロヴァイズやバラードを含む10曲程度の連続演奏が無理なくこなせればひとまず安心だ。


楽器の演奏は目に見えないところだらけで、繊細で複雑なものだとつくづく思う。

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