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  • 執筆者の写真keiichiroyamazaki

夏を迎える

枕草子の昔でないにせよ、四季それぞれに違った趣がある。たしかに現代の夏は獰猛すぎて、そんな悠長なことを言っていられない有様ではあるものの、その語感、ことばが纏う香気はまだまだ失われていないように思う。


夏という語はそれだけで巨大なノスタルジーだ。夕立の香り、塩素のにおい、朝から遊んで日が沈んで、肩にひりひりと残る痛痒さ、身体中の水分がまるごと入れ替わってしまったような、すがすがしい疲労、足の裏に感じる砂の熱さと感触、お祭りの屋台の煙と、烏賊の焼ける匂い、花火の残像。眩しい日差しはあらゆる風景にくっきりと陰影をつけているのに、その記憶は幻のようで、鮮烈なのに柔らかく、どこか淡くて、ほろ苦くもある。


家に閉じ込められてすっかり頭がだらけてしまっていたけれど、なまらないようトレーニングはしていたし、夏がやってきたこのタイミングで日常に戻るのは都合がよい。爽やかなシャルトリューズをいただいて気分よく、また新しい夏をお迎えしよう。

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