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  • 執筆者の写真keiichiroyamazaki

おそれ

自分がもしピアニストだったなら、ショパンのバラード4番は弾きたくないだろうと思う。4つ連続する同音の8分音符は決してごまかすことができず、自分の技量と感性が追いついていないことをいちいち思い知らされながら、それでも何回も何回も弾かなくてはならない。想像するだけで恐ろしい。

思慮を欠いてさえなければ技術が拙くとも素人さんの演奏であろうと楽しく拝聴するけれど、この曲を聴くとき、主題が提示されるときにはいつも鳩尾のあたりをつままれるような緊張を覚える。マーラーの5番の最初も怖いと思うが、こっちはよりシンプルだし、何度も何度も繰り返されるから、そのたびに神経がこわばって、聴き終わるとどっと疲れる。大好きな名曲なのに聴きたくないようで、複雑な気分だ。


ただ4つ、同じ音を打つ。それぞれが帰るべき不動の一点を持っていて、当然ながら、それは弾き手の数だけ存在する。演奏家の本分とはそれを探し続けることにあり、作品の真髄もまたそれを問いかけることにある。

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