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  • 執筆者の写真keiichiroyamazaki

ひそやかでありたい

ある展示に行ったら入り口で手指の消毒と、その流れで氏名と住所欄しかない芳名帳への記帳を求められ、見開きのページいっぱいに他の来廊者さんの情報が丸見えになっていた。撮影OKの掲示が至るところにあり、あろうことか画家さん側のスタッフが断りもなく、来廊者の姿を含む廊内をひっきりなしに撮影していて、作品以前の問題なのですぐに立ち去った。

ギャラリーの世界に昔からいた身でないからよく知らないが、芳名帳は因襲だと思っている。あの展示であれば誰かのお住まいを盗み取ることはたやすく、丸ごと動画や静止画に撮ってしまうことだってできる。近ごろはせめてもの対策としてひとページに一人、記入が済んだら捲ってゴムで留めていく方式や、カードに書いて投函する方式もあるが、見えなくなっている前のページをわざわざ解いて覗いているひとを見たこともあったから、箱を暴いて漁るひともいて不思議はない。計り知れないリスクを冒してまで来廊者に情報を書かせる必要があると私にはとても思えない。


私は自分のために制作していて、見ていただくのはお裾分けのようなものだから、誰かに知られる必要がないし、できたら目立ちたくないと思っている。目立つためにやろうとすることが作品をだめにするとも思っている。だから失うものが何もなく、いざとなれば名前を変えてしまえばいいくらいの態度でいるから呑気なもので、がつがつと世に出ていきたいひとはさぞ大変だろうが、ご自分のことはともかく、せめて顧客の情報はきちんと守るべきで、そこに思いが至らない者に想像力を語る資格はない。

来たのが誰でもいいじゃないか。そっと袖が触れ合うくらいの、ほんのささやかなご縁でいい。




2022年2月19日(土)〜20日(日)

山﨑慧一郎 個展『ロカンタンに捧ぐ』

zakura(渋谷)

入場無料

初日11-21時 2日目11時-18時 両日とも終日在廊します

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